「ないた紅おに」 mm


ちいさな豆が放射線を描いて暗闇へと放たれる。
「鬼は外、福は内」
言葉と豆に追われ、鬼は家を飛び出していく。
いにしえからの季節の行事を重ねながら、人はいつの世も幸せを願う。



二人で交わす酒のツマミは、さっきまで志波家で行っていた節分行事の話。
喜助は赤い鬼の面を被って屋敷内を飛び回った。
飄々としたその振る舞いは幼い空鶴と岩鷲の心を惹きつけ、小さな手は必死で豆を投げつけた。
そんな三人の姿を見て、青い鬼の面をつけた海燕はただ笑うばかりだった。

「『たまには飯食いに来ないか』なーんて人のこと誘っておいて、いそいそと来てみれば『赤鬼やってくれ』ですもん。
志波さんってばヒドい人っスね」
「いいじゃねぇか。こうして酒も振る舞ってるしよ。
たまには童心に返るっていうのも悪くねぇだろ?」
屈託ないその笑顔から本音を見いだしたくても、自分も偽りの面を外す事を恐れている。


「まったく…アナタの妹弟さんは容赦ありませんね。
見てくださいよ!豆当てられてこんなに赤くなっちゃいました」
喜助は腕にみつけた小さな赤い痕を擦りながら、海燕に見せつけた。
「悪りぃな浦原、アイツらは俺に似て何事も真剣勝負なんだ」
そう言いながら、海燕は赤い痕に唇を寄せる。
「こんな気障な事しないでくださいよ」
小さな温もりは更に人肌を恋しくさせる。
喜助は海燕の顔へと手を伸ばし、ゆっくりと唇に指を這わす。
ニヤリと笑う海燕の口元が余裕ありげに見えて、悔しくてそのまま唇で塞いだ。
「志波さん…」
熱を帯びた呼び掛けに返事はないまま、酒と情愛に熱くなった互いの身体を重ねていった。



「赤鬼っていえばさ…昔話で『泣いた赤鬼』ってあったよな」
天井を見つめながら海燕がポツリと呟く。
「人間と友達になりたがった赤鬼の為に、青鬼が一芝居うったおかげで赤鬼の願いが叶ったって話っスね」
喜助は羽織りを正しながら煙草の火をつけた。
「青鬼は赤鬼の今後の為を思ってそこから立ち去って、その気持ちを知った赤鬼が涙した…」
「切ないお話っスね」
「なんでだろな…別れが辛くて涙流す程の相手がそばに居たのによ。
何で違うモンを望もうとしたんだろうな」
「さぁ?大切なものって近すぎると気がつかないんでしょうか」
フゥと喜助が紫煙を吐き出すと、海燕はゴロリと背中を向けて小さく呟いた。
「オメーは此処に居てくれよな」
「ふふっ。志波さんってばズルい人っスね」
そう言いながらも、離れる事も出来ない自分自身を思って喜助は笑った。




「浦原さーん!バイトに来たぜ!」
耳慣れた声に我に返る。

「あ、黒崎サン。わざわざスミマセンね。
『節分の鬼デリバリーサービス』、意外と需要があるんっスよ」
「全く大した守銭奴だよな。で、この鬼のお面を被ればいいのか?」
「あ、黒崎サンにはこっちの赤鬼サンでお願いします」
「え?青鬼は誰かいるのか?」
「ええ。専属の方が居るんでね」
「ふーん。じゃ、これからチャドと回ってくるな」
「ハーイ、行ってらっしゃーい!」
ヒラヒラと扇子を振って一護たちを見送りながら、喜助は手元に残った青鬼のお面を眺めた。


凍てつくような月が浮かぶ澄んだ夜空。
魂魄も輪廻の旅をしているに違いない。
長い旅を終えたら、きっとアナタは戻ってくる。
それまでは…。

「おいしい番茶もありますよ。おいしいおはぎもありますよ。ね、志波さんっ?」
見上げた月が、ボンヤリと霞がかった気がした。



差し上げた絵のお礼にといただいたSS(わらしべ長者…!)が、mmさんには見せていない節分絵と合致してて、ギャー!
これはぜひに一緒に…とお願いしてアップさせてもらいました=3
元ネタは涙無しには読めない「泣いた赤鬼」です(検索してみてください)青鬼の愛に泣け!うわーーーーん!
ほんとねえ、戻ってきたらいいよ!喜助も待ってるよ!
お茶とお菓子は原作にもある記述なんですが、番茶…おはぎ…とニヤリとされたそうです。
おれもニヤリですよ!たいとすげーたいとありがとーーー!!
二人が左右どっちでも!てことでしたが、あああどっちでもおっとこまえな海燕である…どっちでもいい!理想!
てかずるい!海燕てこういうとこありそうですよね…エッそれ誘ってんの?煽ってんの?核心には触れずに相手を動かす!ひどっ…!
てか喜助も同じような性質だと思うので、お互いにぐるぐるぐるぐる牽制しながら近づけずにいそうです 笑
それが煮え切らなくて一歩踏み出す喜助の負けです 大笑!そして最後に海燕がぽろっと殺し文句で喜助、ノックアウト…!
メロメロな喜助がかわいい(いや、なんてかわいそう)…!真髄!!たまらん!
そしてはずせないとこ、 青鬼=海燕専用…ですと…?わあああん!ばか!喜助のばかーー!!
ううう嬉しかったーーー!本当にありがとうございました!


mmさんのサイトはこちら!「一護一会」
いつもは恋一・グリ一さん(そして海燕)!素敵SSが満載じゃよー!

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